勤怠管理システムを選ぶときの判断軸

製品の順位付けではなく、労働基準法の要件から見た「どこを確認すべきか」を整理します。法的義務を満たせるか、自社の勤務形態に合うかを判断するための観点です。

勤怠管理システムの比較記事は数多くありますが、 機能の一覧を並べたものがほとんどです。 機能表を見ても、自社にとってどれが必須なのかは分かりません。

判断の出発点は、法律が何を求めているかです。 そこから逆算すると、確認すべき点は絞り込めます。

法令が直接求めているか

求めている1 客観的な記録 / 2 3年間の取り出し。ここは製品選び以前の要件
求めていない3〜7。自社の勤務形態と規模で優先順位が変わる
7つの確認事項のうち、外せないのはどれか

法令が直接求める2つ

製品を比べる前に、満たしていなければ検討の対象から外れる項目です。

1. 客観的な記録が残るか

2019年4月から、労働時間の状況を客観的な方法で把握することは 事業者の法的義務です(労働安全衛生法66条の8の3)。 詳しくは労働時間の把握は義務ですをご覧ください。

確認すべきは次の点です。

3つ目は見落とされがちです。 「管理職は勤怠をつけない」という前提で設計されたシステムだと、 義務を満たせません。

2. 記録を3年間取り出せるか

労働基準法109条により、出勤簿やタイムカードは 当分の間3年間の保存が必要です。

サービスを解約した瞬間に過去の記録が見られなくなる設計だと、 保存義務を満たせません。 導入前に「やめるときにどうなるか」を確認しておくことをおすすめします。

自社の条件で優先順位が変わる5つ

ここから先は、どれが重要かが会社によって違います。

3. 自社の勤務形態を表現できるか

ここが最も自社固有の部分で、機能表だけでは判断できません。

勤務形態確認すること
変形労働時間制1か月単位・1年単位に対応しているか。総枠の管理ができるか
フレックスタイム清算期間の過不足を繰り越せるか。コアタイムの設定ができるか
交替制・夜勤日をまたぐ勤務を1勤務として扱えるか。深夜時間を自動で切り出せるか
直行直帰・外勤事業場外みなしの扱い。位置情報を使う場合の運用
複数拠点の兼務拠点をまたいだ通算ができるか

日をまたぐ夜勤の扱いは、実際に試さないと分からない部分です。 22時出勤・翌6時退勤を1勤務として集計できるか、 深夜割増の対象時間を自動で切り出せるかは、無料期間中に必ず確認してください。 手作業の確認には深夜労働時間の計算が使えます。

4. 上限に近づいたときに気づけるか

36協定の上限は複数あり、しかも休日労働を含めるものと含めないものが混在します。

月45時間・年360時間・年720時間には休日労働を含めませんが、 単月100時間未満と複数月平均80時間には含めます。 この違いを人が毎月確認するのは無理があります。

3つ目まで見ている製品は多くありません。 現状を手作業で確認する場合は36協定の上限チェックをお使いください。

5. 給与計算につながるか

勤怠だけを記録しても、そこから給与計算へ手作業で転記していては 入力ミスの余地が残ります。

端数処理は特に注意が必要です。 日ごとに切り捨てる設定ができてしまう製品があり、 そのまま運用すると賃金の全額払いに反します。 詳しくは労働時間の切り捨ては違法?をご覧ください。

6. 法改正に追随するか

労働時間に関する法令は改正が続いています。 2019年の上限規制、2023年の中小企業への割増率適用、 2024年の建設・運送・医師への適用開始と、数年ごとに変わっています。

法改正のたびに追加費用が発生する契約だと、 初期費用の比較が意味を持たなくなります。

7. 費用は「従業員数が変わったとき」で見る

多くのサービスが従業員1人あたりの月額課金です。 現在の人数だけで比べると、増減したときに前提が崩れます。

季節によって人数が大きく変わる業種では、ここが総額を左右します。

1人あたりの月額のほかに、次のものが載ります。見積書に出てくる順ではなく、 発生する順に並べています。

費目見るところ
初期費用一度きりか、設定支援が別料金か
打刻端末の本体ICカードリーダー、生体認証の端末、タブレット。拠点ごとに要る
端末の保守故障時の代替機。打刻できない日を作らないための備え
オプション有休管理、シフト作成、給与連携、ワークフローが別課金になっていないか
法改正への対応追加費用がかかるか。かかるなら、初期費用の比較は意味を失う

名前で見ると、どういう製品があるか

判断軸だけでは像が結びません。クラウドで提供されている製品を、名前で挙げます。

当サイトはいずれとも提携しておらず、試用もしていません。 順位は付けません。 各社の公式ページに載っている位置づけと打刻方法を、2026年8月31日に確認して並べたものです。

製品提供元位置づけ公式が挙げている打刻方法
KING OF TIMEヒューマンテクノロジーズ勤怠が中心。給与や人事労務も同じ基盤に載る生体認証(指紋・指静脈・顔)、ICカード、モバイル(位置情報)、PCログオン、専用端末ほか
キンコンソウルウェア勤怠と交通費精算をまとめて扱う交通系ICカードのタッチ、アプリ、チャット(Slack・Chatwork・LINE WORKS)
ジョブカン勤怠管理DONUTSシリーズの1つ。給与計算とのパックもあるICカード、GPS、PC・スマートフォン
ジンジャー勤怠jinjer人事労務のサービス群の一部パソコン、スマートフォン、タブレット、ICカード
タッチオンタイムデジジャパン勤怠に特化。給与ソフトとはCSVやAPIでつなぐ指紋とICカードのハイブリッド、ICカード、顔認証、Webブラウザ、モバイル、Windowsログオン
freee人事労務freee人事労務・給与と一体。勤怠専用の別製品もあるPC、スマートフォンアプリ、ICカード、LINE / LINE WORKS
マネーフォワード クラウド勤怠マネーフォワードクラウドの一式の一部。給与へ連携する前提ICカード、スマートフォン、Webブラウザ、Slack、GPS

(50音順。仕様は変わります。検討を始める前に、公式ページで確かめてください)

並べると、分かれ目は2つに絞られます。 勤怠だけで完結させるのか、給与や人事労務まで同じ基盤に載せるのか。 そして、打刻に専用の端末を使うのか、手元のPCとスマートフォンで済ませるのか。 上の表はこの2つを見るために作っています。

金額は載せません。 料金は改定されますし、人数や契約条件でも変わります。 このサイトには法令値のような確認日つきの台帳が無いため、書けば古い数字がそのまま残ります。 比べ方は前節の7に書いたとおりで、金額そのものは公式ページで確認してください。

乗り換えるときに落ちるもの

新しく入れるより、載せ替えのほうが手間取ります。先に確かめるのは5点です。

確かめること落ちたときに起きること
過去の打刻データを取り込めるか取り込めない製品が多い。旧システムのぶんは別に書き出して保存する
有給の残日数と基準日を移せるか手で入れ直すことになる。基準日を間違えると、次の付与日が全員ずれる
締め日をまたぐ切り替えができるか月の途中で切り替えると、その月だけ2つの記録を合算する羽目になる
社員マスタの項目が対応するか雇用区分や所定労働時間の持ち方が違うと、区分ごとの集計が合わない
解約後に記録を取り出せるか保存義務は3年。契約が切れた時点で見られない設計だと、義務を果たせない

切り替えは締め日の翌日からにして、最初の1か月は旧システムと並行して動かすのが安全です。 初回の締めで数字が合わなければ、疑うのは打刻ではなく移行設定のほうです。

いちばん事故が多いのは有給の基準日です。 移行後の付与日が正しいかどうかは、 有給休暇の付与日数と付与日に入社日を入れて突き合わせられます。

まとめ

必須は1と2です。これを満たさない製品は、 どれだけ機能が豊富でも法的義務を満たせません。

3から7は自社の事情によって重みが変わります。 夜勤があるなら3、人数が多いなら4、 人の出入りが激しいなら7を重く見る、という具合です。

機能表を上から比べるのではなく、この順で絞り込むほうが早く決まります。

なお、いまの勤怠がどう記録され、どう計算されているかを確認するには 勤務時間の計算やシフト表の集計が使えます。 現状を数字で把握してから検討すると、必要な機能が具体的になります。

この記事の立場

当サイトは、勤怠管理システムを実際に導入して運用した立場にはありません。 どの提供元とも提携していません。そのため、製品を並べて順位を付けることはしていません。

名前を挙げた表に書いてあるのは、各社の公式ページに載っている位置づけと打刻方法だけです。 確認したのは2026年8月31日で、それ以降の変更は反映されていません。 仕様と価格は、提供元の公式ページでご確認ください。

この記事が扱う法令

本文で述べている法令の数値と、その原典を最後に確認した日です。

条文そのものを載せているのではなく、記事の説明に必要な部分をまとめています。 個別の事情への当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士へご確認ください。

参考にした資料

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