勤怠管理システムを選ぶときの判断軸
製品の順位付けではなく、労働基準法の要件から見た「どこを確認すべきか」を整理します。法的義務を満たせるか、自社の勤務形態に合うかを判断するための観点です。
勤怠管理システムの比較記事は数多くありますが、 機能の一覧を並べたものがほとんどです。 機能表を見ても、自社にとってどれが必須なのかは分かりません。
判断の出発点は、法律が何を求めているかです。 そこから逆算すると、確認すべき点は絞り込めます。
法令が直接求めているか
法令が直接求める2つ
製品を比べる前に、満たしていなければ検討の対象から外れる項目です。
1. 客観的な記録が残るか
2019年4月から、労働時間の状況を客観的な方法で把握することは 事業者の法的義務です(労働安全衛生法66条の8の3)。 詳しくは労働時間の把握は義務ですをご覧ください。
確認すべきは次の点です。
- 本人が後から自由に書き換えられないか。書き換えられる場合、修正履歴が残るか
- 修正した場合、誰がいつ修正したかが分かるか
- 管理監督者や裁量労働制の人も記録できるか
3つ目は見落とされがちです。 「管理職は勤怠をつけない」という前提で設計されたシステムだと、 義務を満たせません。
2. 記録を3年間取り出せるか
労働基準法109条により、出勤簿やタイムカードは 当分の間3年間の保存が必要です。
- 契約を終了したあとも記録を取り出せるか
- CSVなどの形式で書き出せるか
- 書き出せる期間に制限がないか
サービスを解約した瞬間に過去の記録が見られなくなる設計だと、 保存義務を満たせません。 導入前に「やめるときにどうなるか」を確認しておくことをおすすめします。
自社の条件で優先順位が変わる5つ
ここから先は、どれが重要かが会社によって違います。
3. 自社の勤務形態を表現できるか
ここが最も自社固有の部分で、機能表だけでは判断できません。
| 勤務形態 | 確認すること |
|---|---|
| 変形労働時間制 | 1か月単位・1年単位に対応しているか。総枠の管理ができるか |
| フレックスタイム | 清算期間の過不足を繰り越せるか。コアタイムの設定ができるか |
| 交替制・夜勤 | 日をまたぐ勤務を1勤務として扱えるか。深夜時間を自動で切り出せるか |
| 直行直帰・外勤 | 事業場外みなしの扱い。位置情報を使う場合の運用 |
| 複数拠点の兼務 | 拠点をまたいだ通算ができるか |
日をまたぐ夜勤の扱いは、実際に試さないと分からない部分です。 22時出勤・翌6時退勤を1勤務として集計できるか、 深夜割増の対象時間を自動で切り出せるかは、無料期間中に必ず確認してください。 手作業の確認には深夜労働時間の計算が使えます。
4. 上限に近づいたときに気づけるか
36協定の上限は複数あり、しかも休日労働を含めるものと含めないものが混在します。
月45時間・年360時間・年720時間には休日労働を含めませんが、 単月100時間未満と複数月平均80時間には含めます。 この違いを人が毎月確認するのは無理があります。
- 上限に近づいた段階でアラートが出るか
- 複数月平均80時間を自動で見ているか(単月だけ見る製品もあります)
- 休日労働を含める・含めないを正しく分けているか
3つ目まで見ている製品は多くありません。 現状を手作業で確認する場合は36協定の上限チェックをお使いください。
5. 給与計算につながるか
勤怠だけを記録しても、そこから給与計算へ手作業で転記していては 入力ミスの余地が残ります。
- 使っている給与ソフトへの連携があるか
- 連携がない場合、書き出した形式をそのまま取り込めるか
- 端数処理のルールを自社の規程に合わせられるか
端数処理は特に注意が必要です。 日ごとに切り捨てる設定ができてしまう製品があり、 そのまま運用すると賃金の全額払いに反します。 詳しくは労働時間の切り捨ては違法?をご覧ください。
6. 法改正に追随するか
労働時間に関する法令は改正が続いています。 2019年の上限規制、2023年の中小企業への割増率適用、 2024年の建設・運送・医師への適用開始と、数年ごとに変わっています。
- 法改正への対応が追加費用なしで提供されるか
- 対応の実績が公開されているか
- サポート窓口があるか
法改正のたびに追加費用が発生する契約だと、 初期費用の比較が意味を持たなくなります。
7. 費用は「従業員数が変わったとき」で見る
多くのサービスが従業員1人あたりの月額課金です。 現在の人数だけで比べると、増減したときに前提が崩れます。
- 人数が増えたときに単価が下がるか
- 最低利用人数の縛りがあるか
- 短期のアルバイトを月の途中で追加・削除したときの課金
季節によって人数が大きく変わる業種では、ここが総額を左右します。
1人あたりの月額のほかに、次のものが載ります。見積書に出てくる順ではなく、 発生する順に並べています。
| 費目 | 見るところ |
|---|---|
| 初期費用 | 一度きりか、設定支援が別料金か |
| 打刻端末の本体 | ICカードリーダー、生体認証の端末、タブレット。拠点ごとに要る |
| 端末の保守 | 故障時の代替機。打刻できない日を作らないための備え |
| オプション | 有休管理、シフト作成、給与連携、ワークフローが別課金になっていないか |
| 法改正への対応 | 追加費用がかかるか。かかるなら、初期費用の比較は意味を失う |
名前で見ると、どういう製品があるか
判断軸だけでは像が結びません。クラウドで提供されている製品を、名前で挙げます。
当サイトはいずれとも提携しておらず、試用もしていません。 順位は付けません。 各社の公式ページに載っている位置づけと打刻方法を、2026年8月31日に確認して並べたものです。
| 製品 | 提供元 | 位置づけ | 公式が挙げている打刻方法 |
|---|---|---|---|
| KING OF TIME | ヒューマンテクノロジーズ | 勤怠が中心。給与や人事労務も同じ基盤に載る | 生体認証(指紋・指静脈・顔)、ICカード、モバイル(位置情報)、PCログオン、専用端末ほか |
| キンコン | ソウルウェア | 勤怠と交通費精算をまとめて扱う | 交通系ICカードのタッチ、アプリ、チャット(Slack・Chatwork・LINE WORKS) |
| ジョブカン勤怠管理 | DONUTS | シリーズの1つ。給与計算とのパックもある | ICカード、GPS、PC・スマートフォン |
| ジンジャー勤怠 | jinjer | 人事労務のサービス群の一部 | パソコン、スマートフォン、タブレット、ICカード |
| タッチオンタイム | デジジャパン | 勤怠に特化。給与ソフトとはCSVやAPIでつなぐ | 指紋とICカードのハイブリッド、ICカード、顔認証、Webブラウザ、モバイル、Windowsログオン |
| freee人事労務 | freee | 人事労務・給与と一体。勤怠専用の別製品もある | PC、スマートフォンアプリ、ICカード、LINE / LINE WORKS |
| マネーフォワード クラウド勤怠 | マネーフォワード | クラウドの一式の一部。給与へ連携する前提 | ICカード、スマートフォン、Webブラウザ、Slack、GPS |
(50音順。仕様は変わります。検討を始める前に、公式ページで確かめてください)
並べると、分かれ目は2つに絞られます。 勤怠だけで完結させるのか、給与や人事労務まで同じ基盤に載せるのか。 そして、打刻に専用の端末を使うのか、手元のPCとスマートフォンで済ませるのか。 上の表はこの2つを見るために作っています。
金額は載せません。 料金は改定されますし、人数や契約条件でも変わります。 このサイトには法令値のような確認日つきの台帳が無いため、書けば古い数字がそのまま残ります。 比べ方は前節の7に書いたとおりで、金額そのものは公式ページで確認してください。
乗り換えるときに落ちるもの
新しく入れるより、載せ替えのほうが手間取ります。先に確かめるのは5点です。
| 確かめること | 落ちたときに起きること |
|---|---|
| 過去の打刻データを取り込めるか | 取り込めない製品が多い。旧システムのぶんは別に書き出して保存する |
| 有給の残日数と基準日を移せるか | 手で入れ直すことになる。基準日を間違えると、次の付与日が全員ずれる |
| 締め日をまたぐ切り替えができるか | 月の途中で切り替えると、その月だけ2つの記録を合算する羽目になる |
| 社員マスタの項目が対応するか | 雇用区分や所定労働時間の持ち方が違うと、区分ごとの集計が合わない |
| 解約後に記録を取り出せるか | 保存義務は3年。契約が切れた時点で見られない設計だと、義務を果たせない |
切り替えは締め日の翌日からにして、最初の1か月は旧システムと並行して動かすのが安全です。 初回の締めで数字が合わなければ、疑うのは打刻ではなく移行設定のほうです。
いちばん事故が多いのは有給の基準日です。 移行後の付与日が正しいかどうかは、 有給休暇の付与日数と付与日に入社日を入れて突き合わせられます。
まとめ
必須は1と2です。これを満たさない製品は、 どれだけ機能が豊富でも法的義務を満たせません。
3から7は自社の事情によって重みが変わります。 夜勤があるなら3、人数が多いなら4、 人の出入りが激しいなら7を重く見る、という具合です。
機能表を上から比べるのではなく、この順で絞り込むほうが早く決まります。
なお、いまの勤怠がどう記録され、どう計算されているかを確認するには 勤務時間の計算やシフト表の集計が使えます。 現状を数字で把握してから検討すると、必要な機能が具体的になります。
この記事の立場
当サイトは、勤怠管理システムを実際に導入して運用した立場にはありません。 どの提供元とも提携していません。そのため、製品を並べて順位を付けることはしていません。
名前を挙げた表に書いてあるのは、各社の公式ページに載っている位置づけと打刻方法だけです。 確認したのは2026年8月31日で、それ以降の変更は反映されていません。 仕様と価格は、提供元の公式ページでご確認ください。
この記事が扱う法令
本文で述べている法令の数値と、その原典を最後に確認した日です。
- 労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務(2019年4月1日施行) 労働安全衛生法66条の8の3、労働安全衛生規則52条の7の3 原典を確認した日:
- 賃金台帳・労働関係記録の保存期間(当分の間3年、本則5年) 労働基準法108条・109条、労働基準法143条(経過措置) 原典を確認した日:
条文そのものを載せているのではなく、記事の説明に必要な部分をまとめています。 個別の事情への当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士へご確認ください。
参考にした資料
この記事の内容を計算するツール
- シフト表の勤務時間集計
「9:00-18:00 60」の形式で1行ずつ入力すると、複数シフトの実労働時間と拘束時間をまとめて集計します。22時〜5時との重なりも出しますが、休憩を引く前の値です。月次の勤怠集計にお使いください。
- 36協定の上限チェック
時間外労働と休日労働の時間を入力すると、36協定の上限(月45時間・年360時間、特別条項でも月100時間未満・年720時間)に収まっているかを判定します。
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- 36協定と時間外労働の上限規制|月45時間の数え方
36協定がなぜ必要なのか、原則と特別条項の上限、休日労働を含めるかどうかの違いを整理します。自分の残業が上限に収まっているかを確認できます。
- 固定残業代(みなし残業)のしくみと、損をしないための確認方法
固定残業代は何時間分なのか、超えた分は払われるのか、求人票の月給をどう読めばよいのかを整理します。実際の残業時間との差はツールで確認できます。
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