労働時間の切り捨ては違法?1分単位計算の原則
15分単位・30分単位での勤務時間の切り捨ては認められるのか。労働基準法の考え方と、例外的に認められる端数処理、実際にいくら損をするのかを整理します。
「17時10分に退勤したのに、勤怠システムでは17時00分として記録されている」。 こうした15分単位・30分単位の切り捨てに疑問を持つ人は少なくありません。 結論から言うと、1日ごとの切り捨ては原則として認められていません。
なぜ1分単位が原則なのか
労働基準法24条は、賃金を全額支払わなければならないと定めています(賃金全額払いの原則)。 働いた時間に対応する賃金の一部を支払わないことは、この原則に反します。
1日10分は小さく見えますが、毎日続くと桁が変わります。
月20日で1日10分なら200分、3時間20分ぶんです。年間で48,000円。 「10分くらい」で片付けられる額ではありません。
実際にいくらの差になるかは、パート・アルバイトの勤務時間と日給の計算で 丸め単位を切り替えて確認できます。
例外的に認められる端数処理
一方で、事務処理の便宜のために認められている処理もあります。 1か月の労働時間を合計したうえで、次のように扱う場合です。
| 対象 | 認められる処理 |
|---|---|
| 1か月の時間外労働・休日労働・深夜労働の各時間数の合計 | 1時間未満の端数のうち、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げ |
| 1時間あたりの賃金額と割増賃金額 | 円未満の端数のうち、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げ |
| 1か月の割増賃金の総額 | 1円未満の端数を、上と同じように処理 |
| 1か月の賃金支払額 | 100円未満の端数のうち、50円未満を切り捨て、50円以上を100円に切り上げ |
この扱いの出どころは、条文ではありません
労働基準法の条文に「15分単位で切り捨ててはいけない」とは書かれていません。 根拠は2段になっています。
- 労働基準法24条の全額払いと、37条の割増賃金の定め
- その運用を示した通達(昭和63年3月14日付け 基発150号)
上の表はこの通達が挙げているもので、日ごとの端数処理を認めない一文も、同じ通達に置かれています。通達は行政の内部文書ですが、労働基準監督署はこれに沿って指導します。 実務で効いてくる分かれ目は、条文ではなくこちらです。都道府県労働局が配っている資料にも同じ内容が載っています。
切り上げなら、1日単位でも構いません
厚生労働省の資料は、1日の労働時間について 「一定時間に満たない時間を切り上げた上で、その分の賃金を支払うことは、問題ありません」としています。 制限がかかっているのは切り捨てる方向だけで、多く払うぶんには単位を問われません。
行政の資料が挙げている例
- 勤怠管理システムの端数処理機能を使い、1日の時間外労働のうち15分未満を一律に切り捨てる
- 残業申請を30分単位に限り、30分に満たない時間外労働の申請を認めない
どちらも「システムの設定がそうなっている」「申請の決まりがある」という説明が付きます。 それでも、働いた時間に対する賃金が支払われていない点は変わりません。
何が違いを作っているのか
「1か月の合計で30分未満を切り捨て、30分以上を切り上げ」は、 月によって得も損もします。長い目で見れば均されます。
「1日ごとに15分未満を切り捨て」には切り上げがありません。 どの月も必ず減る方向にしか動かない。ここが分かれ目です。
始業前と終業後の時間の扱い
切り捨てと並んで問題になりやすいのが、記録されない労働時間です。
- 始業前の朝礼や清掃
- 制服への着替えが業務上義務づけられている場合の着替え時間
- 終業後の片付け
これらは、使用者の指揮命令下にあると評価されれば労働時間にあたります。 「タイムカードを押した後」であっても、実態として業務であれば労働時間です。
自分の勤務時間を確かめるには
まず、実際の出退勤時刻を自分で記録することをおすすめします。 給与明細の記載と突き合わせて差があるかを確認するところから始まります。
1日ぶんの計算は勤務時間の計算、 1か月ぶんの集計は複数の勤務時間の合計が使えます。 合計を出すときは、各日を小数に直してから足すのではなく、 分のまま合計してから最後に変換するほうが、誤差は出ません。
差額を請求できるか
未払いの賃金は請求できます。賃金請求権の時効は、2020年4月の改正により当面3年とされています。
会社との話し合いで解決しない場合は、お近くの労働基準監督署に相談できます。 相談の際は、実際の出退勤時刻の記録(手帳、スマートフォンの位置情報、業務メールの送信時刻なども材料になります) と給与明細を用意しておくと話が進みやすくなります。
なお、この記事は制度の一般的な説明であり、個別の事案についての判断ではありません。 具体的な対応が必要な場合は、労働基準監督署や社会保険労務士にご相談ください。
この記事が扱う法令
本文で述べている法令の数値と、その原典を最後に確認した日です。
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間) 労働基準法32条 原典を確認した日:
条文そのものを載せているのではなく、記事の説明に必要な部分をまとめています。 個別の事情への当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士へご確認ください。
参考にした資料
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「労働時間・休日」
- 厚生労働省「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」(R6.9)
- 山口労働局「労働時間の『切り捨て』はダメ!」(昭和63年3月14日付け基発150号の内容)
この記事の内容を計算するツール
- パート・アルバイトの勤務時間と日給の計算
出勤・退勤・休憩と時給を入力すると、その日の日給を計算します。15分単位・30分単位で切り捨てた場合に、いくら減るのかも確認できます。
- 勤務時間の計算
出勤時刻・退勤時刻・休憩時間を入れるだけで、実労働時間を「8時間30分」と「8.5時間」の両方の形式で計算します。夜勤など日をまたぐ勤務にも対応しています。
- 複数の勤務時間の合計
「8:00」「7:30」のような時間を1行ずつ貼り付けると、合計時間と平均を計算します。1か月ぶんの勤務時間の集計にお使いください。
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