固定残業代(みなし残業)のしくみと、損をしないための確認方法

固定残業代は何時間分なのか、超えた分は払われるのか、求人票の月給をどう読めばよいのかを整理します。実際の残業時間との差はツールで確認できます。

求人票の記載が「月給25万円(固定残業代45時間分5万円を含む)」だったとします。 このとき、基本給にあたるのは25万円でなく、5万円を引いた20万円です。

固定残業代は月給の一部ではなく、先払いされた残業代だからです。 残業をしなかった月でも、この5万円は残業の対価として支払われています。 そのため、比べる相手は固定残業代なしの月給20万円の求人になります。

固定残業代とは

あらかじめ一定時間分の残業代を、毎月定額で支払う仕組みです。 「みなし残業」「営業手当」などの名称で運用されることもあります。

残業が少ない月でも満額が支払われるため、働く側に有利に働くこともあります。 問題になるのは、制度が正しく運用されていない場合です。

有効であるための条件

固定残業代が有効と認められるには、次が必要とされています。

  1. 通常の賃金と固定残業代が区別できること(明確区分性)
  2. 何時間分の残業に対応するかが分かること
  3. その時間を超えた分は、別途支払われること

金額と時間数の両方が書かれているか

両方ある3つ目の条件(超過分の支払い)を確認する
どちらか欠ける明確区分性を満たさず、無効と判断されることがある
求人票の書き方から有効性を見る

「月給25万円(固定残業代を含む)」とだけ書かれ、 金額も時間数も示されていない場合、1と2を満たしません。

求人票の月給を読み替える

「月給25万円(固定残業代45時間分5万円を含む)」を分解してみます。

月平均所定労働時間を173時間とすると次のようになります。

基礎時給 = 200,000 ÷ 173 ≒ 1,156円

45時間分の残業代を25%増で計算します。

1,156 × 1.25 × 45 ≒ 65,000円
45時間分に必要な額65000円
支給されている固定残業代50000円
45時間分として必要な額と、実際の支給額

自分のケースで計算するには、 月給から基礎時給を求める計算と 残業代の計算を組み合わせてください。

2つの求人を、同じ土俵に並べる

固定残業代のある求人と、無い求人は、月給の数字だけでは比べられません。 次の2つを、月平均所定労働時間173時間として並べます。

求人A求人B
残業の対価でない部分200,000円230,000円
基礎時給≒1,156円≒1,329円
残業0時間の月250,000円230,000円
残業20時間の月250,000円≒263,000円
残業45時間の月250,000円(不足15,000円)≒304,800円

残業が少ない月はAが多く、増えるとBが逆転します。 分かれ目は、20,000円の差を求人Bの割増単価(≒1,661円)で割った月12時間あたりです。 毎月12時間を超えて残業する職場なら、月給の高いAのほうが手取りは少なくなります。

求人票の月給どうしを比べても、この逆転は見えません。 比べるのは、固定残業代を引いたあとの金額と、基礎時給の2つです。

超えた分は支払わなければなりません

固定残業代は「何時間残業させてもよい券」ではありません。 定めた時間を超えた分は、通常どおり割増賃金の支払いが必要です。

「45時間分もらっているから、50時間働いても同じ」という説明は誤りです。 超過した5時間分は別途支払われなければなりません。

支払う義務があるという話であって、実際に支払われているとは限りません。 この見出しを「必ず支払われます」と書かないのはそのためです。 固定残業代の時間数と、その月に実際に働いた時間を並べて確かめてください。

実際に何時間残業したかは、シフト表の勤務時間集計で集計できます。

上限規制は別に適用されます

固定残業代の時間数と、36協定の上限は別の話です。

固定残業代を45時間分と定めていても、 時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間のままです。

固定残業代を80時間分と定めている求人を見かけることがありますが、 それは「80時間まで働かせてよい」という意味ではありません。 80時間分を先払いしているだけで、上限のほうは別に効いています。

自分の残業時間が上限に収まっているかは、 36協定の上限チェックで確認できます。

最低賃金との関係

最低賃金と比較するとき、固定残業代は除外します。

月給25万円のうち5万円が固定残業代なら、比較対象は20万円です。 求人票の額面だけを見て「時給換算すると十分」と判断すると、実際には下回っていることがあります。

詳しくは月給が最低賃金を下回っていないか確かめる方法をご覧ください。

不足していると分かったら

計算して足りていないと分かっても、その場で結論は出ません。 順番があります。

  1. 手元の記録をそろえる。 雇用契約書と就業規則の固定残業代の定め、給与明細、 その月に実際に働いた時間の記録。3つが揃って初めて差額を主張できます
  2. 会社に内訳を尋ねる。 固定残業代が何時間分として計算されているか、 基礎時給をいくらで置いているかを聞きます。こちらの計算違いがここで判明することもあります
  3. 公的な相談窓口を使う。 各都道府県の労働局と労働基準監督署に総合労働相談コーナーが 置かれていて、無料で相談できます

さかのぼれる期間には限りがあります。 賃金を請求できる期間は労働基準法115条で5年とされ、 附則143条3項により当分の間は3年に短縮されています(退職手当は5年のまま)。 記録が残っていても、3年より前の分は取り戻せません。

その月に実際に何時間働いたかは、 シフト表の勤務時間集計でまとめて集計できます。

確認しておきたい3点

書面で確かめること

労働条件通知書か就業規則で、次を確認してください。

確認すること見当たらない場合
固定残業代の金額明確区分性を欠く可能性がある
対応する時間数同上
超過分を支払う旨の定め制度の有効性が争われうる

3つとも書かれていれば、制度としては整っています。 残るのは、実際の残業時間と照らして超過分が支払われているかどうかだけです。

記録を残しておく

実際の出退勤時刻を自分でも記録しておくことをおすすめします。 手帳、スマートフォンのメモ、業務メールの送信時刻なども材料になります。

差額の請求が必要になった場合、記録の有無が結果を大きく左右します。 賃金請求権の時効は、2020年4月の改正により当面3年とされています。

固定残業代そのものは違法な仕組みではありません。 残業が少ない月でも満額が出るぶん、有利に働く月もあります。 問題になるのは、金額と時間数が示されず、超過分も払われていないときだけです。 求人票を見る段階で3点を確かめておけば、入社後に困ることはかなり減らせます。

この記事が扱う法令

本文で述べている法令の数値と、その原典を最後に確認した日です。

条文そのものを載せているのではなく、記事の説明に必要な部分をまとめています。 個別の事情への当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士へご確認ください。

参考にした資料

この記事の内容を計算するツール

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