打刻方法の比較|法的な記録要件から見た向き不向き

ICカード・スマホ・PCログ・生体認証など、打刻方法ごとの特徴を、労働時間の客観的把握という法的要件の観点から整理します。勤務形態別に向いている方法も示します。

労働時間の把握は事業者の法的義務で、 その方法は「タイムカード、パソコンの使用時間の記録、その他の適切な方法」とされています (労働安全衛生規則52条の7の3)。 詳しくは労働時間の把握は義務ですをご覧ください。

条文が例示しているのは方式であって、製品ではありません。 どの方式でも、客観性が担保できていれば要件を満たします。

方式ごとの整理

紙のタイムカード

打刻機に通すと時刻が印字される、最も古い方式です。 客観性という点では問題なく、法的要件は満たします。

弱点は集計です。月末に全員分を手作業で集計するため、 人数が増えると時間がかかり、転記ミスも起きます。 また、拠点が複数ある場合や直行直帰がある場合には対応できません。

紙のカードから集計する場合は、 シフト表の集計に転記すると、 実労働時間と深夜時間を一度に出せます。

ICカード・社員証

入口にリーダーを置き、カードをかざして打刻する方式です。 入退館管理と兼ねられるため、打刻を忘れにくいのが利点です。

弱点は、カードの貸し借りができてしまう点です。 「先に帰るから代わりに打刻しておいて」が物理的に可能なので、 運用ルールで補う必要があります。

PCのログオン・ログオフ記録

パソコンを使う業務であれば、その使用時間の記録が使えます。 条文が明示的に例示している方式です。

利点は、本人の操作を必要としないことです。打刻忘れが起きません。 弱点は、パソコンを使わない作業時間が記録されないことです。 会議、来客対応、現場作業の時間は別に把握する必要があります。

始業前にパソコンを立ち上げてから朝礼に出るような運用だと、 ログと実際の労働時間がずれます。

スマートフォンアプリ(位置情報を使う場合)

直行直帰や訪問営業の多い業種で使われます。 現場に着いた時点で打刻できるため、実態に近い記録が残ります。

ただし位置情報は個人情報です。 取得する場合は、利用目的を特定して本人に通知または公表する必要があります (個人情報保護法17条・21条)。

実務上、次の点は事前に決めておく必要があります。

「監視されている」という受け止めが生じやすい方式なので、 取得範囲を打刻時点に限るといった設計上の配慮が、 運用の定着に直結します。

生体認証(指紋・静脈・顔)

なりすましができないため、客観性は最も高い方式です。

一方で、生体情報は個人情報保護法上の個人識別符号にあたり、 通常の個人情報より慎重な扱いが求められます。 漏えいしたときに変更できないという性質もあります。

導入する場合は、生体情報そのものを保存するのか、 特徴量に変換したデータを保存するのかを確認してください。

事業場に立ち寄って働くか

立ち寄る紙・ICカード・生体認証・PCログから、人数と集計の手間で選ぶ
立ち寄らないスマートフォンアプリ。位置情報の扱いを先に決める
どの方式を選ぶか

勤務形態別に向いている方式

勤務形態向いている方式理由
事務所勤務・固定席PCログ、ICカード打刻忘れが起きにくい
店舗・工場の交替制ICカード、生体認証人の入れ替わりが多く、なりすまし対策が要る
直行直帰・訪問営業スマホアプリ事業場に立ち寄らないため
在宅勤務PCログ場所を問わず記録できる
少人数・単一拠点紙のタイムカード集計の負担が小さく、費用がかからない

少人数なら紙で十分です。 法的要件は紙でも満たせます。 システムが必要になるのは、集計の手間が無視できなくなったときか、 拠点や勤務形態が複雑になったときです。

費用は、月額だけでは決まりません

打刻の方式を決めると、そこに費用が付いてきます。 月額料金の外側で発生するものを先に見ておくと、後から膨らみません。

方式月額のほかに要るもの
紙のタイムカードカード代、タイムレコーダー本体、置き場所。集計の人手
ICカード・社員証カードリーダー。拠点ごと、入口ごとに要る。カードの再発行
生体認証読み取り端末。指紋や静脈は登録の手間もかかる
スマートフォン原則として端末は不要。私物を使うなら、その扱いを先に決める
PCログオン・ログオフ原則として端末は不要。PCを共用している職場では別の方式が要る

端末が要る方式では、故障したときにどう打刻するかも決めておいてください。 読み取り機が1台しか無い拠点で壊れると、その日から記録が止まります。 代替の手段が無いまま「あとで紙に書く」運用に流れると、客観的な記録から外れます。

金額そのものは、製品と台数と拠点数で変わります。 このサイトでは金額を書かず、公式ページで確認してもらう形にしています。 料金には法令値のような確認日つきの台帳が無く、書けば古い数字が残るためです。

打刻漏れは、起きる前に直し方を決める

どの方式でも漏れは出ます。運用で決めておくのは、直し方と、直した跡の残し方です。

3つ目でつまずきがちです。締めに間に合わなかったことを理由に、支払いを見送ることはできません。 働いた時間に対応する賃金は全額を支払う必要があり(労働基準法24条)、 訂正が遅れたのは会社側の事情だからです。次の支払いで精算する場合も、 何月分の訂正かを明細で分かるようにしておいてください。

漏れが月に何度も起きる場合、直し方より前に方式が合っていません。 打刻機の位置か、方式そのものを見直す番です。

在宅勤務の中抜けをどう記録するか

在宅勤務で問題になるのは、始業と終業ではなくその間に抜ける時間です。 私用で1時間離れた分は労働時間ではないので、記録が無いと実労働時間が出せません。

抜けた時間を差し引いた実労働時間は、勤務時間の計算で出せます。 1か月ぶんをまとめて集計するならシフト表の集計が使えます。

方式より大事なこと

どの方式でも、次の3つが崩れると要件を満たせません。

1. 打刻の時刻と、実際に労働を開始した時刻がずれていないか。 制服への着替えが義務づけられている場合、着替えの時間も労働時間です。 更衣室と打刻機の位置関係で、記録が実態からずれることがあります。

2. 修正の履歴が残るか。 打刻漏れの修正自体は必要な運用ですが、 誰がいつ修正したかが残らないと、記録の客観性が失われます。

3. 端数処理が日ごとの切り捨てになっていないか。 日ごとに15分単位で切り捨てる設定は、 賃金の全額払いに反すると解されています。 実際の差額はパート・アルバイトの日給計算で確認できます。

方式を選ぶ前に、この3つをどう担保するかを決めておくと、 導入後に運用が破綻しません。

製品を選ぶ段階での確認事項は 勤怠管理システムを選ぶときの判断軸に整理しています。

方式の優劣を先に決めようとすると、たいてい選べません。 先に決まるのは勤務形態のほうで、方式はそれに従って絞られます。 事業場に立ち寄るのか、何人ぶんを誰が集計するのか。 この2つが決まれば、残る選択肢は多くても2つか3つです。

この記事の立場

特定の製品をすすめるものではありません。 打刻の方式そのものを、法律が求める記録の要件と、日々の運用のしやすさから整理しています。 製品ごとの仕様や価格は、提供元の公式ページでご確認ください。

この記事が扱う法令

本文で述べている法令の数値と、その原典を最後に確認した日です。

条文そのものを載せているのではなく、記事の説明に必要な部分をまとめています。 個別の事情への当てはめは、労働基準監督署または社会保険労務士へご確認ください。

参考にした資料

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